顧客目線から見たPeach(ピーチ)がLCCで一人勝ちの理由

LTV

Peach(ピーチ)は、見えない「スゴさ」が満載のLCC

JetStar(ジェットスター)・バニラエア・春秋航空・AirAsia(エア・アジア)等々、話題のLCCですが、日本では圧倒的な強さを示すのがPeach(ピーチ)です。
その強さの理由について、各種レポートがされています。
■関西国際空港という24時間離発着可能な空港をベースに選んだこと。
■徹底的なコストダウンを図ったこと。
■LCCなのに高い就航率・信頼性。
■マーケティングの上手さ。
ただ上記はすべて企業目線の分析で、競合他社が類似サービスを実施可能で、真に強い差別化ポイント項目ではありません。
Peachの秘密は、なかなか見え難い隠されたポイントにあり、今回その点を、顧客目線から分析を加え、真髄に迫ってみます。

CA(キャビン・アテンダント)の採用方針

Peachが関空拠点に運行開始を決めた時、人材の採用に「スゴさ」を見せました。パイロット・整備員は親会社のANAに依存せざるを得ませんでしたが、顧客との「接点」となる、CA(客室乗務員)・地上職員の採用に独自性をもたせました。
当時、井上CEOは「タバコ屋の看板娘」を採用したい!と強いこだわりを見せました。

求める客室乗務員の人物像としては、「たばこ屋の看板娘」と言っています。同じたばこを売っているのに、なんであの店だけ売れているのかと思ったら、そこの娘さんが親しみやすくて、誰にでも気さくに話しかけて人気のある魅力的な女性だった。
航空会社もそうです。どこの会社も、安全運航で、使っている飛行機は同じだし、サービスも一緒ですよね。何で差をつけるのか。客室乗務員、つまり看板娘でなければだめなんです。

この「看板娘」というキャッチフレーズは現在でも採用HPに明確に示されています。
※「タバコ屋の看板娘」の具体的イメージが湧く人がどれだけいるかはさておいて・・・
CAになりたい女子学生は山ほどいて、採用募集すればいくら関西といっても、CA予備校に募集をかければ、選べないほど応募は集まりますが、そのルートで採用募集はせず、「看板娘」という、独自の採用基準をつくり、応募を募りました。
採用にかける費用を削減するのも当然で、マスコミを上手に利用しています。
ピーチ、個性ある人材を求める“CAオーディション”の街頭PRを大阪 心斎橋で実施
その時のニュースが衝撃的で、今でも覚えていますが、井上CEOが御堂筋で応募を募るキャンペーンを実施しています。

採用風景


 

差別化ポイントはお客様との「接点」

「看板娘」を言い換えると、企業の差別化のポイントは、お客様との「接点」。CAだということです。当時、LCCが身近にない時代、だれもが差別化ポイントは「価格」「合理性」と想像する段階で、「接客」の起点・CA(看板娘)に差別化ポイントを集中したのです。
「看板娘」とは?
今までの、容姿・身長・学歴・外国語力を軸に評価するのではなく、「コミュニケーション力」を重点にしています。身長制限もかなり緩めています。おかげで、1年契約・年収200万円という厳しい条件でも多数の応募があったようです。
多種多様なCAを採用しました。看護婦さん・保育士さん・ショップ店員・身長制限でCAの夢を一旦あきらめたOLさん。個性いろいろで、見た目で言うと、茶髪の人が多いのも特徴です。
実はこれが、最大の好調の要因になりました。

顧客ターゲットは女性

ANAの子会社でもあったPeachにとって、顧客ターゲット設定も重要でした。初期の段階で、女性に絞り込んだのも関係があります。CAスクールを卒業したメイク・スタイルばっちりのCAは、女性から親しみが湧きにくく、ちょっと身長が低めで愛嬌があって、接客が好きな女性を採用しようという戦略です。
関西起点という事もあって、Peach搭乗経験のあるビジネスマンの方は非常に少ないと思いますが、CAさんが違うと機内の感じが全く違います。殺伐とした緊張感が無く、まるで本当に自分の家に帰ってきた様な感覚を覚え、特に女性客には、また乗ってみたいと思わせます。
このポイントは、特に男性には、なかなか差別化ポイントとして理解し難く、それだけ競合企業が追いつけないポイントでもあります。外資系のJetstarは当然理解していないし、後発のバニラ・エアも理解している様には見えません。

これは「お・も・て・な・し」なのか?

採用サイト
リッツ・カールトン、ノードストローム、加賀屋など、究極の顧客満足を提供している企業がありますが、Peachが顧客を引きつけているのはその価値とは違うものです。当然LCCですから、顧客サービスは最低限です。前述の企業群が提供するサービスは、JAL・ANAでは既に提供されています。
Peachのサービスは、「顧客の要求に応える」のでは無く、「顧客と同じ目線に立つ」という感じです。
接点の方向性が
JAL・ANA:  CA → お客様
PEACH :  CA ← お客様
という感じです。
LCCですから、荷物の上げ下ろしをCAは基本手伝いません。困っている、身長の低い女性を機内でよく見かけますが、Peach機内では隣の男性客が女性客の荷物を上げる手伝を行う光景を頻繁に目にします。
サービスが不備だと騒ぐ客は当然いません。(サービスがほとんどないので、サービスの不備はそもそも無いのですが) 遅れるのも当たり前で、遅れたと文句を言う客もいません。
逆に、居心地良いフライトにすべく全員で協力しようという、乗客共有の価値観を機内で感じます。そして、その代表がCAさんという感じです。機内の価値観のリーダーです。
これが「お・も・て・な・し」なのかどうかはよくわかりませんが、居心地の良い時間を乗客に提供することに成功しています。信じられないでしょうが、Peachに乗ることが旅行の目的と言う乗客も数多く存在すると聞きます。
そして、この価値観に共感する顧客層がPeachの業績をつくっています。今回ANAの完全子会社化が発表されましたが、顧客からは反対の声も数多く寄せられています。そして、井上CEOはPeachの独自性を守ると宣言しています。ANA
peach子会社化
今のPeachはお客様が創った飛行機会社でもあるからです。

LTV最大化は顧客との関係性(コミュニケーション)構築から

データが開示されていないので正確にはわかりませんが、PeachだけがLCCの中で黒字化を果たしたのは、コストダウンと、リピート客・固定客の多さです。基幹の関西空港でのPeachのターミナルは、コストダウンの為に、駅からバスで10分ぐらいかかる極めて不便な第二ターミナルです。他のLCCに比べて極めて不利な立場です。それでもリピートされるのは、真のファンを多く抱える事に成功したからです。
前述しましたが、Peachは過剰なサービスでファンをつくったのではありません。
顧客と同じ目線(コミュニケーション)に立った事がファンをつくり、LTV最大化に貢献しています。

顧客と同じ目線(コミュニケーション)に立てるCAを採用する事からPeachの成功は始まっています。
CA予備校の生徒がその能力が無いとは言いませんが、それよりももっと顧客と同じ目線に立てる「接客」を重視し採用戦略を立てたのが成功のポイントだと考えます。

「顧客満足度向上」の時代から、「顧客目線のコミュニケーション」の時代

リッツ・カールトン、加賀屋の接客を望む顧客は存在しますが、過剰なサービスがあふれる現代、顧客は更に進んで、「共有・参加」を求めるようになっています。
その顧客層を取り込むのには「接点」が重要で、顧客目線のCA採用を実施し、LTV最大化に成功したのがPeachだと言えそうです。
企業目線で考える至れり付くせりの「顧客満足度」を追求するのではなく、少々制約のある環境で「顧客参加型」の環境・世界観をつくれば、ファンが集ってくる、LTVが最大化する、という時代に突入しているのではないでしょうか。
それには、顧客目線の新しい「接点」が必要です
米国の食品スーパーで成功例として頻繁に挙げられる「トレーダー・ジョーズ」という食品専門店で買い物した時の経験ですが、「レジの女性が購入した商品の美味しさを自分の目線で客に伝えてくれる」姿に驚いた記憶があります。
スターバックスの店員も重要な「接点」です。ファン自らがレジに立ち、顧客目線の「接点」になっています。シアトルの1号店には、全世界から今でもファンが集まります。今までの「顧客」という概念ではなくて、「応援者」です。
そしてこの「接点」の重要性は
■競合他社から見えにくく簡単に模倣されない
■次々にファンが自然に集ってくる
という循環をもたらします。
飛行機を降りる時、どの航空会社でもCAさんがお客さんにお礼の挨拶を行います。Peachでは、逆にお客さんがCAさんに「ありがとう」という風景を見ることがあります。
LCCですから、目に見える接客をされたわけではありません。いい空間をつくってくれてありがとうというお礼かも知れませんね。
次回「接点」について続けて掘り下げてみるつもりです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました