ダイレクト・マーケティングをコストコから探ってみると。

LTV
402065 04: Mary LaRocca offers a sample of Libby's Vienna Sausage in a Costco Wholesale store March 8, 2002 in Niles, IL. Warehouse retailer Costco Wholesale Corp. has reported higher quarterly profits as the promise of bulk goods at bargain prices resonated with consumers in the U.S. recession. Warehouse retailers charge customers an annual membership fee, typically $35 to $45, to shop at clubs that offer deep discounts on bulk quantities of items like food and household cleaners. (Photo by Tim Boyle/Getty Images)

ダイレクト・マーケティングの概念

『ダイレクト・マーケティング』は、BtoCビジネスの概念ですが、可視化して伝える事が非常に難しく、極めて効果的であるのに、理解が一般的に広まらないビジネスです。また、「通販」=「ダイレクト・マーケティング」という説明もあり(間違いではないのですが)誤解も多いビジネス概念です。リアル店舗でダイレクト・マーケティングを実施しているコストコ社を例えに、その概念を紐解いてみます。

Amazonも目指すダイレクト・マーケティング

Amazonで買い物されている方ならおわかりでしょうが、現在Amazonは「プライム」という特別会員募集に躍起になっています。年会費3,900円(税込)を先に支払うと、多くの特典が受けられるという会員制の組織です。
実はこのAmazonプライム、ジェフ・べソスが、コストコ創業者からビジネスの真髄を教えられたことからアイデアを得て、独自に開発・開始したサービスです。

アマゾンのジェフ・ベゾスが、小売のコストコから「厚かましく盗んだもの」(ビジネス+IT)

そしてコストコのビジネスモデルはダイレクト・マーケティングの概念をリアル・チェーンで実現した極めて高度に設計されたものでもあります。

マス広告は初回会員獲得に集中

コストコのビジネスを簡単におさらいしてみることにします。
店舗オープンが迫ると、広範囲商圏に会員獲得を目的にした「チラシ」を配布します。商圏は「車で1時間」という設定の様で、高速IC近くの出店も多く、距離数で言えば数十キロ圏に及びます。
配布する「チラシ」には、

  1. オープン日時
  2. オープンセールの目玉商品&価格
  3. 有料会員制の説明
  4. 『オープン前・事前入会(割引)』の案内

が記載されますが、特に重要な目的は(4)の店舗オープン前に行われる、特別事前入会の案内です。新しい店ができると「是非見に行ってみたい」と思う客層が少なからず存在します。特に魅力的な価格を見せられるとなおさらです。但し、コストコの場合は有料会員でないと入店さえ出来ない仕組です。個人であれば4.400円が必要で少し躊躇する価格です。そこに、事前入会(割引)という仕掛が準備されています。

オープン前に入会すれば、会費が1000円割引になるというものなのですが、冷静に考えれば、オープンもしていない店の会員になるのに会費割引で客が集まるのか?と思われそうですが、実は膨大な会員がそこで集まります。2013年に愛知県にオープンした店では、5万人以上が入会したと伝えられています。私も、某店オープン前に行ってみましたが、店舗オープン前なのに、駐車場は満員、長蛇の列に並んでやっと入会、おまけに店の中には全く入れず、仮設ブースみたいな所で寒風が吹く過酷な環境でした。オープン前に5万人の固定客と2億円の現金を獲得する場所としてはお寒いところですが、それが何か親近感を醸し出すイベント演出の様でもありました。
当然、事前に入会した5万人はオープン後、必ず来店し、3,400円の元を取るだけの買い物をします。クレジットカードも指定ブランドでないと決済できないというおまけ付きで、ハウスカードへの誘導も自然?です。

参加型のビジネスモデル

上記の初回集客プロセスに「ダイレクト・マーケティング」の重要な要素があります。『受動的』な消費者を『能動的』な顧客に変えているのです。参加型のビジネスモデルと言ってもいいでしょう。店舗オープン初日から、来店する顧客は全て『能動的』な顧客です。もし今まで他店で購入していた商品であっても、『能動的』に自らコストコで購入する事を選ぶようになるマジックがここにあります。
会員の来店する動機は、通常店・・『良い商品があったら買ってみよう』、というモードなのに比べ、コストコの場合、『良い商品を探し出す』というモード(能動的)で来店されます。
『試食コーナー』に並ぶ人の数で見れば明らかです。通常スーパーの試食に並ぶ人は僅かですが、コストコの店内では延々列を成して試食に並びます。来店者が『受動的』であれば、試食=売込と認識し、試食を避けがちです。『能動的』で自ら買う商品を探すというモードで有るが故、列をなして並ぶのです。新しい商品にチャレンジしてみようという顧客の意識が感じられる場面です。

不思議な独特のカテゴリ(品揃え)

コストコの商品品揃えには不思議なカテゴリがあります。

  • タイヤ
  • DPE(プリント)
  • サプリメント/調剤薬局
  • コンタクトレンズ/メガネ
  • 補聴器

タイヤの例で考えてみます。通常自動車用品であれば、オイル交換の需要も大きいのですが、コストコでは、基本的にタイヤしか販売していません。「タイヤセンター」と名付けられています。自動車用品の中でタイヤは荒利が大きく、割安感が出せる商品なのは確かですが、なぜタイヤだけなのでしょう?
会員入会時に「タイヤクーポン券」が配布されます。このクーポン金額は会費を上回るもので、初回来店でタイヤを購入すれば、会費の元が1回で取れる様になっています。おまけに、購入したタイヤのローテーション・充填等メンテナンスを無料で受けられるサービス付きです。
初回の会費を負担するのがファミリーの誰か?を考えてみた時、主婦にとっては少しハードルが高い金額設定です。例えば、夫に負担させる動機が何か必要となってきます。そのコストコ流の答えが「タイヤ」なのです。サプリメント・コンタクトレンズ・補聴器も会費を支払う言い訳になる商品です。顧客から見た時、絶対支出が必要なカテゴリの購入をコストコにチェンジするだけで、会費支出の元がとれれば、入会はもとより、継続の理由になります。
上記に上げた「不思議な商品カテゴリ」は、

  • 割安感が出せる高額商品
  • 継続利用(購入)される
  • 利用者層が幅広く、売手に専門性が必要

という共通点があります。自動車オイルを扱っていないのは、理由があるのです。目的に合致する商品しか取り扱っていないのです。補聴器も電池交換等のメンテナンスはフリーです。会費支出の理由をつくるためのカテゴリーだと言って差し支えないでしょう。

ダイレクト・マーケティングとは何か?

今まで見てきた中で重要なポイントを整理してみると

  1. 強固な『能動的・参加型』会員制組織
  2. 会員を作り・継続させる商品カテゴリ

となり、『能動的・参加型』会員制組織を運営するのが事業運営の柱として機能し、その中から商品カテゴリが生まれているのが特徴です。『能動的・参加型』会員制組織を維持する為に何をすべきかを考えて、取り扱う商品を決めるビジネスモデルがダイレクト・マーケティングと言えそうです。
コストコはDMも送付します。会員制組織を強固に作るとは、「能動的・参加型」の顧客をつくる事でもあります。この能動的顧客つくりにコストコは集中していると言えるのではないでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました